
大阪・長崎のIR概要・毎日新聞記事より転載
IRに詳しい鳥畑与一 静岡大教授(国際金融論)にインタビューした、毎日新聞 野田樹 記者の記事がありました。
鳥畑教授は「カジノをするために世界中から富裕層が集まる世界は、もう消えている」と指摘し、そして日本のIR計画の問題点をのべています。
その【「富裕層はもう集まらない」 専門家が語る日本型カジノの危うさ】(5/20)より、抜粋させてもらいます。
──やはり新型コロナウイルスの影響がありますか?
変化は米国のカジノ市場でモロに表れている。米国では地上型カジノ市場の飽和が進み、オンラインへの移行が加速している。カジノをするために世界中から富裕層が集まり、お金を落としてくれる世界はもう消えている。
それなのに日本は、この状況下でも地上型カジノの開業を目指している。しかしもしもオンラインカジノへ移行するなら、設備投資や雇用が減って、地域への恩恵は小さくなるだろう。
――大阪と長崎がIRの候補地ですが?
どちらの計画も、日本の観光や国際競争力を引き上げようとする視点が乏しいように思う。
長崎では大規模IRの経営実績が乏しい事業者が一つ選ばれ、運営能力や資金調達に懸念が出ている。
大阪は1兆円規模の投資だが、事業者のMGMリゾーツ・インターナショナル(米国)の出資は、全体の2割ほど。あとは共同事業者のオリックスや少数株主の地元企業が出資し、日本の大手銀行が融資する。
国の最初のIR計画は、海外資本が日本に巨額の投資をしてくれるという話だったが、いまや絵に描いた餅だ。
――経済効果は、大阪IRでは年間1兆円超、長崎では約3300億円、とされています。
カジノには「コンプ」と呼ばれるサービスがある。客へのポイント還元のようなもので、航空券や食事、ホテルの宿泊が無料になったりする。ギャンブルをすればするほど還元される仕組みで、米国では利益の3割ほどを還元している。
コンプの活用は大阪、長崎の計画にも盛り込まれているが、IRの中でしか利用できなければ、周辺地域への波及効果は小さくなり、マイナスの経済効果が発生する恐れもある。
自治体には、ギャンブル依存症や治安対策の社会的コストもかかる。大きな経済波及効果があるというのは、幻想ではないか。
――ギャンブル依存症対策は十分でしょうか?
ギャンブル依存症は隠す病気だと言われている。当事者は行き詰まってどうにもならなくなった時に初めて、周囲に相談する。
米国でも、本人や家族の申告で入場を制限する制度や相談所を設けている州は多いが、本人の自主性に委ねる部分が大きく、機能しているとは言えない。
IR実施法では事業者側が入場制限などの対策を講じることになっているが、カジノで利益を求める立場の事業者がどこまで本気で取り組めるのか。
――計画は今後、国の審査を受けます。
国の認定を受けて開業にこぎ着けても、期待する経済効果が生み出せるかは非常に疑問だ。
一方で地域社会はカジノを抱え込まないといけない。治安対策などの社会的コストはずっとのしかかってくる。
事業者が撤退する可能性もあり(例えば大阪の事業者の一つMGM)、自治体は今後も非常にリスクを背負った選択を迫られることになるが、マイナス面も含めた合理的な選択をしているようには思えない。

鳥畑与一 静岡大教授・毎日新聞記事より転載
略歴
鳥畑与一(とりはた・よいち)
1958年生。89年大阪市立大大学院博士課程修了、2002年から現職。多重債務問題がきっかけで、ギャンブルに造詣が深い。著書に「カジノ幻想 『日本経済が成長する』という嘘」(ベスト新書)など。
IRの行方
大阪と長崎は4月27日、IRの区域整備計画を国へ認定申請した。今後、国の有識者委員会が経済効果や運営能力を審査し、国土交通相が認定すれば開業が認められる。大阪、長崎とも認定される可能性もあるが、両方とも選ばれない可能性もある。認定時期は未定。